令和4年度 SDGs市民活動スタートアップ支援事業 「あおぞらをつかむ~ 誰にでも居場所がある社会をめざして~」 講演会の報告

産業医からみた就労の実際と課題 II
~生きづらさ・働きづらさを抱える方との心の交流のコツ~

令和4年11月19日(土)に、 北九州市立西部障害者福祉会館501~503会議室にて、産業医科大学大学 院医学研究科産業衛生学専攻医学部医学概論教室 教授 藤野昭宏氏を講師にお迎えして、上記の講話題で講演会を行いました。

○講話の概要についてお知らせします

  1. 本人が困っていること

    一つの仕事に専念し過ぎて同時進行ができない、注意されると全否定されたように感じ、トラウマになる、仕事の段取りができない、急な対応が難しい、残業をしても業務が追いつかない、職場に居づらい等。

  2. 周囲の人が感じること(本人と周囲の人との軋轢)

    社会人としてのマナーが不十分、無断で仕事中にいなくなる、自己主張が強い、いつまで配慮が必要か?等

  3. 産業医が休職した人との面談で感じること

    (1)本人の心理
    周りとズレている気がするが、何がズレているか分からない、周りに迷惑をかけていることが辛い、続けたいが向いていないかもしれない、繰り返しの一人作業はできるが、チームワーク業務は避けたい等。

    (2)産業医からの働きかけ
    本人との信頼関係の構築、自分で特性に気づくよう配慮、困っていることに具体的に対応、組織の一員として働く意味と実際を繰り返し確認する、人間関係の技術を身につけ人間性を深めることを目指すよう助言する。人間関係の技術を磨くために、あいさつの徹底、腰を低くする、おかしな言動はその都度教えてもらう、メンターへの定期的な相談を勧める。人間性を深めるために、誠実で真摯な態度、感謝の気持ち、笑顔、調子に乗らない、欲張らないことを意識するよう伝える。
    周囲に対して、特性理解、偏見・先入観の防止、大声で注意しないことを助言。特性を活かす業務を探し配置転換や職務変更の検討、ライン外のメンター制度、チーム対応、両親を含め三者面談と障害者雇用の検討を提案。働き続ける職場は、上司の人間性の影響が大きく、配置転換や周囲尾配慮で適応するケースも少なくない。

  4. 働きづらさを感じる人が働き続けるための工夫の12

    1笑顔であいさつ
    2報告・連絡・相談のタイミングの確認
    3言動の問題は指南してもらう
    4メンター制度の活用
    5業務に関する到達段階グレード表の作成
    6業務の進捗状況表の作成と日々の変更・確認
    7自分の取扱解説書の作成
    8特性自覚と反省日記
    9意識・行動変容の気づき・工夫ノートをつける
    10特性に向く職種・業務に就く
    11障害者雇用枠を考慮
    12正社員の通常業務にこだわらない

  5. 産業医の立場から保護者・支援者に望むこと

    本人は愛情にきわめて敏感な性質であることを理解し、保護者・支援者自身が一人の人間として自己開示して、自分と誠実に真摯に向き合っているか、見直すことが大切である。自分の言動は上から目線になっていないか、自分の成功体験や価値観で本人を苦しめていないか、本人の独自の生き方を見守っているか、自問自答すること。保護者・支援者自身が本人に対し無償の愛情を注ぐことで、本人と癒やし・癒やされる関係になることが望まれる。 本人の話を傾聴し、共感し、信頼関係を作り、本人自身が気づいて解決していけるようサポートすることが大切である。

○アンケート結果 (回収率95%)と講演会の写真をご紹介します

○感想(一部抜粋)

☆ご本人・保護者から

  • 自分自身が働きづらさを感じていて、参加させてもらいました。当事者や、周囲の人の具体的な例を聞くと、耳が痛くなるところもありましたが、私以上に大変な状況で、頑張っていらっしゃる方の話を聞き、明日からも頑張ろうという励みになりました。ありがとうございました。

  • 今回初めて参加させていただき、とても、とても、衝撃で、どこをとっても我が家にあてはまることばかりで、あらためて、課題が認識でき、新たに課題が増えました。どのように考えたらよいのか、方向性など、少し新しい光がみえたように感じて、大変充実した時間でした。

  • 中学生の息子の母です。発達障害があります。大変な子育てです。彼が社会に出て、自分の力で生活できる(生きていける)ことを常に考えながら、彼と関わるようにしています。とても勉強になりました。頑張ります!

  • 子どもたちが、自立できるようにと願い、成人しているのだから、余計な口出しはせず、見守ることに徹する、と 心がけているつもりでおります。しかしそのいっぽうで、大きな不安と焦りのような気持もあり、藤野先生のお話を うかがいながら、自分の至らなさ、傲慢さを、改めて反省しております。これまで藤野先生が、私たちに伝えてくだ さった、たくさんのことを、5年間の資料を読みかえし、思い出しながら、これからも頑張っていきたいと思います。

☆支援者から

  • 先生の多くの症例やご家族の話題が大変わかりやすく、学ばせていただきました。支援者として関わることが多いのですが、その際のポイントを的確に教えていただき、実践的であると感じました。

  • 発達障害をお持ちの方の就労・生活支援に携わっている者です。今回の先生のお話は、日々の業務に重なる部分が多く、自分自身の確認作業となりました。わかりやすいお話をありがとうございました。最後にかけ足で話された「保護者や支援者に望むこと」で、1コマ話していただけると嬉しいです。

  • 事例をもとに、大変わかりやすいお話を聞かせていただきました。本人の「できないこと」より、「できる」ことに着目し、強みをいかすようにして、本人の生きづらさを少しでも軽減出来たらよいと思いました。地域の中で、どのように暮らしていきたいか、どんなふうに接してもらいたいか、聞いてみたいと思いました。私は誰もが地域の中で自分らしく過ごせるまちづくりを進めていますが、本人の特性を理解していないと、無理に地域のコミュニティに誘ったりすることが、かえって生きづらさを感じさせてしまうこともあり、ベストな関わり方を考えさせられました。